東京地方裁判所 昭和56年(刑わ)939号 判決
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【説明】
本件判決は、先に紹介した同種事例判決(東京地判昭56.11.6本誌四五四号一七一頁)と同旨のものであり、分離組の被告についてなされた右判決例と同様に成績原簿の法的性格については、特に争いはなく、その点について特に判示もなされていない。右事例判決における解説において摘示したように、本件における成績原簿の偽造も、先に被告人らが不正入学させた学生を進級等させるためになしたものであり、一部被告人について実刑判決もなされているので、量刑上も参考となると思われるのであえて掲載する。なお、本件の前提になつた不正入学に関連してなされた大学入試問題用紙窃取事件についての東京高判昭56.8.25については本誌四五五号一五七頁参照。
【判旨】
第二犯行に至る経緯及び罪となるべき事実
一被告人中島、同岡及び同岸田によるS、M及びOに関する各成績原簿の偽造、同行使の関係
1 犯行に至る経緯
被告人中島は、昭和五〇年一〇月ころ、Sの母親から、Sを早稲田大学商学部へ不正入学させてくれるよう頼まれ、また、同じころ、かねてから数名の学生の不正入学の依頼を受けてきた知人から、知り合いの子女であるMを同学部に不正入学させてくれるよう頼まれ、被告人岡に右各依頼を取り次いだところ、同被告人もこれを承諾したので、右両名の各親許から各金六〇〇万円を出させたうえ、被告人岡が右両名を不正入学させることに成功した後の翌五一年三月上旬ころ、同被告人に謝礼として金一、〇〇〇万円を交付した。
また、被告人中島は、同五二年暮れころ、Oの父親から、Oを同学部に不正入学させてくれるよう頼まれ、被告人岡に右依頼を取り次いだところ、同被告人もこれを承諾したので、Oの親許から金九〇〇万円を出させたうえ、被告人岡がOを不正入学させることに成功した後の翌五三年三月上旬ころ、同被告人に謝礼として金八〇〇万円を交付した。
ところで、被告人中島は、自分が仲介して不正入学させた学生を無事卒業させるためには、各年度において単位の取り残しがないようにこれらの学生の成績原簿に手を加えてその成績をかさ上げすることが必要であると考えていたので、昭和五三年三月ころ、S及びMの二年度までの成績を確認するため、被告人岡を介して商学部教務係の被告人岸田から右二名の学生の成績原簿のコピーを取り寄せたところ、Sは二年度において「不可」又は履修取消のため三科目が不合格であり、Mは二年度において同じく五科目が不合格であることが判明した。そこで、同被告人は、右両名がこれらの科目の単位を取得したかのようにそれぞれの成績原簿に手を加えて成績をかさ上げする必要があると考え、被告人岡にその旨依頼したところ、同被告人も、右両名の学生がかつて自分が不正入学させた者であることから、右両名の不正入学の発覚を未然に防ぐには右両名を早く卒業させた方がよいと考えて、右依頼を承諾し、更に、同被告人は、当時商学部教務係において成績原簿の作成及び管理に携つていた被告人岸田にS及びMの成績原簿を書き換えるよう依頼し、被告人岸田は、右依頼を承諾した。一方、被告人中島は、Sの母親及びMの不正入学の仲介者に対し、それぞれ右事情を説明して了解を得たうえ、Sについては金五〇万円、Mについては金四〇万円をそれぞれ受領し、被告人岡に謝礼として金六〇万円を交付し、被告人岡は、同岸田に謝礼として金四〇万円を交付した。かくして、被告人岸田は、同年四月三日ころ、未使用の成績原簿用紙二枚を用いて、S及びMがそれぞれ一、二年度に所定の単位を取得したかのように、右両名の各成績原簿を書き換えたうえ、これらを商学部事務所備え付けの成績原簿綴りに編綴した。
更に、被告人中島は、翌五四年三月中旬ころにも、前年と同様の考えから、S及びMの三年度の各成績並びに前年に不正入学させたOの一年度の成績をそれぞれ確認するため、被告人岡を介して同岸田から右三名の学生の成績原簿のコピーを取り寄せたところ、Sは三年度において二科目が「不可」であり、Mは同じく一科目が「不可」であり、Oは一年度に体育科目を含めて四科目しか単位を取得していないことが判明したので、被告人中島は、前年と同様の方法によつて右三名の学生の成績原簿を偽造する必要があると判断した。
2 罪となるべき事実
被告人中島は、昭和五四年三月中旬ころ、東京都新宿区西早稲田三丁目三番三号所在の前記中島洋服店店舗において、前記のとおり被告人岡からS、M及びOの各成績原簿のコピーを手渡された際、被告人岡に右三名の学生がそれぞれ不合格となつた科目について合格したかのように各学生の成績原簿をそれぞれ偽造するよう依頼したところ、被告人岡は、前同様の考えから右依頼を承諾し、前年と同様に被告人岸田をして右三名の学生の成績原簿を偽造させようと考え、同月下旬ころ、同都同区西早稲田一丁目六番一号所在の学校法人早稲田大学一号館本部調度課事務所から同番地所在の同大学一一号館一階商学部事務所に勤務中の同被告人に電話をかけて、その旨依頼したところ、同被告人は、右依頼を承諾し、ここにおいて、被告人中島、同岡及び同岸田の間に、S、M及びOの各成績原簿を偽造したうえ、これを商学部事務所に備え付けて行使する旨の共謀が順次成立した。被告人岸田は、右共謀に基づいて、同月二六日、前記商学部事務所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同所備え付けの未使用の早稲田大学商学部成績原簿用紙三枚を使用し、
(一) そのうちの一枚の学生番号欄にナンバリングを用いて「76〜00720」と打刻し、その氏名欄にサインペンで「S」と記入するなどしたうえ、その一年度ないし三年度の成績欄に、「(優)」・「優」・「良」・「可」と刻したゴム印を押捺して、Sは三年度までに合計一〇四単位を取得したにすぎないのに、合計一二四単位取得したかのように記載するなどし、もつてS(昭和五一年度入学)に関する早稲田大学商学部作成名義の私文書である早稲田大学商学部成績原簿一通(昭和五六年押第一、二三二号の1)を偽造し、
(二) 前同様の方法で、他の一枚の学生番号欄に「76〜01312」と打刻し、その氏名欄に「M」と記入するなどしたうえ、その一年度ないし三年度の成績欄に、Mは三年度までに合計九九単位を取得したにすぎないのに、合計一二三単位を取得したかのように記載するなどし、もつてM(昭和五一年度入学)に関する前記早稲田大学商学部成績原簿一通(同押号の2)を偽造し、
(三) 前同様の方法で、他の一枚の学生番号欄に「78〜00212」と打刻し、氏名欄に「O」と記入するなどしたうえ、その一年度の成績欄に、Oは一年度に一一単位を取得したにすぎないのに、四一単位を取得したかのように記載するなどし、もつてO(昭和五三年度入学)に関する前記早稲田大学商学部成績原簿一通(同押号の3)を偽造し、
そのころ、これらを同学部事務所保管の各早稲田大学商学部成績原簿綴りに編綴したうえ、順次同事務所に備え付けて行使した。(なお、被告人中島は、この間の同月中旬ころ、Sの母親から金五〇万円、Mの仲介者から金四〇万円、Oの父親から金七〇万円をそれぞれ受領したうえ、右各偽造後の同月下旬ころ、被告人岡に謝礼として金九〇万円を交付し、同被告人も、そのころ、被告人岸田に謝礼として金七〇万円を交付した。)
二被告人酒井、同小出及び同岸田によるHに関する成績原簿の偽造、同行使の関係
1 犯行に至る経緯
被告人酒井は、昭和四九年一〇月ころ、知り合いであるHの母親からHを早稲田大学商学部に不正入学させてくれるよう頼まれたため、被告人小出に右依頼を取り次いだところ、同被告人もこれを承諾したので、翌五〇年一月ころ、Hの母親から金四〇〇万円を出させたうえ、被告人小出に金三〇〇万円を交付し、同被告人は、同年二月下旬Hを同学部に不正入学させることに成功した。
その後、同五四年三月ころになつて、被告人酒井は、Hの母親から、Hがあと一年間の留年で卒業できるよう便宜を取り計らつてくれるよう頼まれ、同女の持参したHの成績通知書を見たところ、同人は卒業に必要な一四八単位のうち四年度までに約半分の七六単位を取得したにすぎず、あと一年間の留年では到底卒業できない成績であつたが、被告人小出を介して成積原簿を書き換えればHをあと一年間の留年で卒業させることができると考えて、右依頼を承諾し、Hの母親から金一五〇万円を受領した。
2 罪となるべき事実
被告人酒井は、同年三月一八日ころ、同都清瀬市中里一丁目七三五番地所在の被告人小出方を訪れ、同所において、同被告人に対し、Hの母親から預つたHの前記成績通知書を示し、Hがあと一年間留年すれば卒業できるように同人の四年度までの成績原簿を偽造してもらいたい旨依頼したところ、被告人小出は、Hがかつて自分が不正入学させた学生であることを知つて、同人の不正入学の発覚を未然に防ぐには同人の成績原簿を偽造するしかないと考えて右依頼を承諾し、その翌日被告人酒井と会つて同被告人から金一〇〇万円を受け取つたうえ、商学部で成績原簿の作成及び管理事務等に携つている教務係の被告人岸田をしてHの成績原簿を偽造させようと考え、同月二二日ころ、同都新宿区西早稲田一丁目六番一号所在の早稲田大学一四号館社会科学部事務所内の別室において、同被告人に対し、Hの前記成績通知書を示し、Hがあと一年間留年すれば卒業できるように取りあえず同人の四年度までの成績原簿を偽造してもらいたい旨依頼したところ、被告人岸田は、右依頼を承諾し、ここにおいて、被告人酒井、同小出及び同岸田の間に、Hがあと一年間留年すれば卒業できるように同人の四年度までの成績原簿を偽造したうえ、これを商学部事務所に備え付けて行使する旨の共謀が順次成立した。被告人岸田は、右共謀に基づいて、同月二六日、前記商学部事務所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同所備え付けの未使用の早稲田大学商学部成績原簿用紙一枚を使用し、その学生番号欄にナンバリングで「75〜00625」と打刻し、氏名欄にサインペンで「H」と記入するなどしたうえ、その一年度ないし四年度の成績欄に、「優」・「良」・「可」・「不可」と刻したゴム印を押捺して、Hは四年度までに合計七六単位を取得したにすぎないのに、合計一二八単位を取得したかのように記載したほか、同人は四年度までに未取得単位があつて留年するものと装うため、未履修の一科目及び「可」の一科目につきそれぞれ「不可」であつたかのように記載するなどし、もつて、H(昭和五〇年度入学)に関する前記早稲田大学商学部成績原簿一通(同押号の4)を偽造し、そのころ、これを同学部保管の同学部成績原簿綴りに編綴したうえ、同事務所に備え付けて行使した。(なお、被告人小出は、右偽造後の同年四月上旬ころ、被告人岸田に謝礼として金五〇万円を交付した。)
三被告人中島、同村田及び同岸田によるJに関する成績原簿の偽造、同行使の関係
1 犯行に至る経緯
被告人中島は、昭和五〇年暮れころ、知人から親戚のJを早稲田大学商学部に不正入学させてくれるよう頼まれて被告人岡に話をもちかけたが、同被告人から被告人村田に依頼するように言われ、同被告人にその旨依頼したところ、同被告人がこれを承諾したので、Jの親許から金六〇〇万円を出させたうえ、同被告人がJを不正入学させることに成功した後の翌五一年三月上旬ころ、同被告人に謝礼として金五〇〇万円を交付した。
ところで、被告人中島は、同五三年三月ころ、前同様の考えから、被告人村田にJの二年度までの成績原簿に手を加えて成績をかさ上げするよう依頼したところ、同被告人も、Jがかつて自分が不正入学させた学生であることから、同人の不正入学の発覚を未然に防ぐには同人の成績原簿を書き換えるほかないと考えて、その場で右依頼を承諾したが、当時既に商学部事務所から転出していたので、商学部教務係の被告人岸田にJの成績原簿の書き換えを行なわせようと考え、同被告人にその旨依頼したところ、同被告人から多忙を理由に断わられたため、同被告人からJの二年度までの成績原簿のコピー及び未使用の成績原簿用紙を入手するとともに、書き換えに必要な用具一式を借り受け、同年四月一一日ころ、右用紙を用いて、Jは一、二年度において外国科目の単位を全く取得しておらず、合計でも一六科目しか合格していなかつたにもかかわらず、二六科目に合格したかのように同人の成績原簿を書き換えたうえ、その翌日、被告人岸田をして右成績原簿を成績原簿綴りに編綴させた。一方、被告人中島は、同年三月下旬ころ、Jの不正入学の仲介者を通じて、Jの父親に事情を説明したところ、同人から、Jを卒業させ、しかも就職のために良い成績を取らせてほしい旨依頼されるとともに、二年度及び三年度の二回分の書き換えの謝礼として金一〇〇万円の送金を受けたので、同年四月一五日ころ被告人村田に謝礼として金三〇万円を交付し、同被告人は、この中から被告人岸田に謝礼として金一〇万円を交付した。
更に被告人中島は、同五四年三月下旬ころ、前同様の考えに加え、前年にJの父親から二回分の成績かさ上げの依頼と謝礼金の送金を受けていたことから、同人の三年度の成績を確認するため、被告人村田を介して同岸田からJの成績原簿のコピーを取り寄せたところ、同人は三年度においても二科目しか単位を取得していないことが判明したので、前年と同様にJの成績原簿を偽造する必要があると判断した。
2 罪となるべき事実
被告人中島は、同年三月下旬ころ、前記中島洋服店店舗において、前記のとおり被告人村田からJの成績原簿のコピーを手渡された際、同被告人に対し、金二〇万円を渡して、Jが四年で卒業できように同人の三年度までの成績原簿を偽造するよう依頼したところ、被告人村田は、前同様の考えから右依頼を承諾し、商学部教務係の被告人岸田をしてJの成績原簿を偽造させようと考え、同年四月上旬ころ、前記商学部事務所地階の印刷室において、同被告人に対し、Jの三年度までの成績原簿を偽造するよう依頼したところ、被告人岸田は、右依頼を承諾し、ここにおいて、被告人中島、同村田及び同岸田の間に、Jが四年で卒業できるように同人の三年度までの成績原簿を偽造したうえ、これを同事務所に備え付ける旨の共謀が順次成立した。被告人岸田は、右共謀に基づいて、同月一一日、前記事務所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同所備え付けの未使用の早稲田大学商学部成績原簿用紙一枚を使用して、その学生番号欄にナンバリングを用いて「76〜00781」と打刻し、その氏名欄にサインペンで「J」と記入するなどしたうえ、その一年度ないし三年度の成績欄に、「優」・「良」・「可」・「不可」と刻したゴム印を押捺して、Jは三年度までに合計六三単位を取得したにすぎないのに、合計一一九単位を取得したかのように記載するなどし、もつて、J(昭和五一年度入学)に関する前記早稲田大学商学部成績原簿一通(同押号の5)を偽造し、そのころ、これを同学部保管の同学部成績原簿綴りに編綴したうえ、同事務所に備え付けて行使した。(なお、被告人村田は、右偽造後の同月中旬ころ、被告人岸田に謝礼として金一〇万円を交付した。)
四被告人市原、同岡及び同岸田によるUに関する成績原簿偽造、同行使の関係
1 犯行に至る経緯
被告人市原は、昭和五〇年一〇月ころ、学生時代からのボクシングの後援者であつた知人からUの母親を紹介され、同女からUを早稲田大学商学部に不正入学させてくれるよう頼まれたため、被告人岡に右依頼を取り次いだところ、同被告人もこれを承諾したので、翌五一年一月ころ、Uの母親から金八〇〇万円を出させたうえ、被告人岡に謝礼として金六〇〇万円を交付し、同被告人は、同年二月下旬Uを同学部に不正入学させることに成功した。
その後同五四年一〇月ころになつて、被告人市原は、Uの母親から、Uが成績不振のため大学を中退したいなどと言つているが、何とかあと一年間の留年で卒業できるように尽力してもらいたい旨懇請されたため、Uを自分の研究室に呼んで単位の取得状況等を質したところ、同人は三年度までに二〇単位程度しか取得しておらず、あと一年間の留年では到底卒業できないことが判明したが、同人の成績原簿を偽造すれば、同人の母親の望みどおりUをあと一年間の留年で卒業させることができると考える一方、U本人に対しては、五年度の単位を自力で取るよう指導を試みた。
2 罪となるべき事実
被告人市原は、同年一一月ころ、前記早稲田大学本部調度課事務所内食堂において、被告人岡に対し、金三〇〇万円の謝礼を出すのでUがあと一年間留年すれば卒業できるように同人の成績原簿を偽造してもらいたい旨依頼したところ、被告人岡は、前同様の考えから右依頼を承諾し、商学部教務係の被告人岸田をしてUの成績原簿を偽造させようと考え、同年一二月上旬ころ、前記調度課事務所の食堂に同被告人を呼び出し、同被告人に持参させたUの成績原簿のコピーにより、同人が四年では卒業できないことを確認したうえ、被告人岸田に対し、Uがあと一年間留年すれば卒業できるように同人の四年度までの成績原簿を偽造するよう依頼したところ、被告人岸田は、右依頼を承諾し、ここにおいて、被告人市原、同岡及び同岸田との間に、Uがあと一年間留年すれば卒業できるように同人の四年度までの成績原簿を偽造したうえ、これを商学部事務所に備え付けて行使する旨の共謀が順次成立した。(なお、その後の同月下旬ころ、被告人市原は、Uの母親から金四〇〇万円を受領したうえ、謝礼として金三〇〇万円を被告人岡に交付し、同被告人もそのころ金一六〇万円を謝礼として被告人岸田に交付した。)被告人岸田は、右共謀に基づいて、翌五五年二月二六日ころ、前記商学部事務所地階の印刷室において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同事務所備え付けの未使用の早稲田大学商学部成績原簿用紙一枚を用いて、その学生番号欄にナンバリングを用いて「76〜00254」と打刻し、その氏名欄にサインペンで「U」と記入するなどしたうえ、その一年度ないし四年度の成績欄に、「優」・「良」・「可」・「不可」と刻したゴム印を押捺して、Uは四年度までに合計一〇単位を取得したにすぎないのに、合計一三〇単位を取得したかのように記載したほか、同人は四年度までに未取得単位があつて留年するものと装うため、未履修の二科目につき「不可」であつたかのように記載するなどし、もつて、U(昭和五一年度入学)に関する前記早稲田大学商学部成績原簿一通(同押号の6)を偽造し、同月二七日ころ、前記商学部事務所において、これを同学部保管の同学部成績原簿綴りに編綴したうえ、同事務所に備え付けて行使した。<中略>
(確定裁判)
被告人岡は、昭和五六年八月二五日東京高等裁判所で窃盗罪により懲役二年に処せられ、右裁判は同年九月九日確定したものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。
(法令の適用)
被告人らの判示各所為中、各無印私文書偽造の点は刑法六〇条、一五九条三項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、各偽造無印私文書行使の点は刑法六〇条、一六一条一項、一五九条三項、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するが、右の各無印私文書偽造とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条によりいずれも犯情の重い各偽造無印私文書行使罪の刑で処断することとし、その所定刑中いずれも懲役刑を選択するところ、被告人岡の判示各罪と前記確定裁判のあつた窃盗罪とは同法四五条後段の併合罪であるので、同法五〇条により未だ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、被告人岸田の判示各罪、被告人岡の判示各罪及び被告人中島の判示各罪はそれぞれ同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人岸田及び同岡についてはいずれも犯情の最も重い判示第二の四の2の各罪の刑に、被告人中島については犯情の最も重い判示第二の一のOに関する罪の刑にそれぞれ法定の加重をし、以上の各所定刑期及び各刑期の範囲内で、被告人岸田を懲役一年二月に、被告人小出及び同村田を各懲役八月に、被告人岡を懲役六月に、被告人酒井及び同市原を各懲役一〇月に、被告人中島を懲役一年にそれぞれ処し、被告人岸田、同酒井、同市原及び同中島に対しては、情状により、同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から各三年間それぞれその刑の執行を猶予することとし、押収してある早稲田大学商学部成績原簿六通(昭和五六年押第一、二三二号の1ないし6)の各偽造部分は、それぞれ判示各偽造無印私文書行使の犯罪行為を組成した物で、なんぴとの所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項を適用してこれらを没収することとする。
(量刑の事情)
本件各犯行は、被告人らが、いずれも三名からなる四つのルートに分かれて順次共謀のうえ、早稲田大学商学部に在学した六名の学生の成績原簿を偽造し、これを同学部事務所に備え付けて行使したという事案である。
被告人らの偽造した早稲田大学商学部成績原簿は、単に同学部学生の努力の成果を記録した文書であるにとどまらず、同学部の卒業資格を判定する基礎資料となり、また、学生の就職等に際して同学部から発行される学業成績証明書や卒業見込証明書の作成資料ともなるのであつて、高度の公信性を備え、学内における最重要書類に属すると言つても過言でなく、本件各犯行によつて、実際にも、四名の学生が同学部を卒業し、一名の学生が卒業予定者名簿に記載されたものの本件の発覚により卒業の直前にその卒業予定を取り消されるという事態まで生じているのであり、本件各犯行は、同大学の多数の学生、卒業生その他同大学関係者に衝撃を与えたばかりでなく、成績原簿の真正に対する学内外の信頼を失なわせ、ひいては一〇〇年もの伝統を誇る早稲田大学の社会的信用を著しく毀損したものであつて、その結果は極めて重大である。(なお、本件において成績原簿偽造の対象となつた六名の学生は、いずれも不正入学者であつたことから、既に卒業した者も含めて、昭和五六年五月六日付で全員学籍を抹消された。)加えて、本件各犯行は、前記のとおり、右各学生の不正入学の後始末ないしはアフタ・ケアとして不正入学と表裏一体をなすものであるうえ、その犯行態様をみても、不正入学の際に形成されたルートを活用した成績原簿偽造グループによる組織的かつ計画的犯行であると言つて差し支えない。
ところで、早稲田大学商学部における入学及び成績原簿をめぐる状況をふり返ると、被告人岡、同小出及び同村田らがその前身である第一・第二商学部に配属された当時、既に、第二商学部におけるいわゆる教職員による推せん入学制度と並行して、第一商学部においては、事務職員の手で種々の方法による不正入学が行なわれており、成績原簿の書き換えも、これらに随伴して第一・第二商学部で共に行なわれていたことが窺われ、右被告人らもほどなくこれに関与するようになり、昭和四〇年ないし四四年ころから前記「親和会」のメンバーとともに入試答案の差し替えによる不正入学を実行するようになつてからは、毎年のようにこれら不正行為を繰り返していたものであつて、本件各犯行もその一環をなすものであるところ、右被告人らはもとより、これに便乗した被告人中島、同酒井及び同市原らの規範意識の鈍麻には驚くべきものがある。それとともに、これらの長年にわたる不正行為を看過してきた大学当局の管理上の手落ちもまた非難されなければならないであろう。ところで、本件各犯行の背景には、世の学歴偏重の風潮や受験戦争の過熱化、並びに、このような時流に災いされ、わが子の学歴を願うあまり、金の力に頼り不正手段に訴えることをも辞さないとする心ない親が跡を断たなかつたことなどの諸事情があることも否定できないが、本件被告人らの行為は、このような風潮や親心を悪用したものと言うことができるのであつて、被告人らの責任は、これらの諸事情を考慮してもなお軽減されえないものと言わなければならない。
次に、本件各被告人の犯情を検討するに、被告人岸田は、商学部教務係という職務上の地位を悪用して本件各犯行の実行行為を担当したうえ、本件各犯行の謝礼として合計二九〇万円にものぼる金員を受領しており、金銭的誘惑から本件各犯行に及んだものであることは否定できないが、同被告人は、不正入学には関与せず、組織の末端にあつて、もつぱら被告人岡、同小出及び同村田に指示されるまま本件犯行に出たものであり、しかも、同被告人が成績原簿の書き換えに手を染めたそもそもの発端が当時の直近の上司であつた被告人村田の指示であつたこと等を考慮すると、被告人岸田の本件全体における地位は相対的には高くなく、犯情もさほど悪質であるとは言えず、同被告人には反省の情も十分認められる。
これに対し、被告人岡、同小出及び同村田は、いずれも経験豊かな職員として成績原簿の重要性を熟知し、本件当時は事務長、主事或いは主事補という要職にあつて他の職員を指導すべき立場にあつたにもかかわらず、本件各犯行に及んだばかりでなく、従前から入学及び成績原簿作成をめぐる不正行為を繰り返し、なかんずく、昭和四五年ころ被告人岡による成績原簿改ざんが発覚した後も、有効な防止策が講ぜられなかつたことを奇貨として、不正行為を続けていたものであつて、本件において取得した謝礼の額にはそれぞれ差があり、また、被告人小出の本件犯行への関与の態様が比較的消極的であつたとはいえ、右三名は、いずれも偽造グループの中枢にあつたことは否定できず、そもそも、不正入学も成績原簿の偽造も、商学部の事務職員としての経歴の長いこれら三名の被告人がいて初めて可能になつたと言つても差し支えない。以上の犯情に鑑みると、右被告人ら三名がいずれも現在懲戒免職の処分を受け、世の厳しい指弾を浴びるなど既に社会的制裁を受けていること、本件について十分反省していると認められること等の事情を考慮しても、なおその責任は厳重に問われなければならない。(ただ、被告人岡については、本件各犯行の犯情は被告人小出及び同村田と比較しても悪質であると言うべきであるが、本件各犯行と併合罪の関係にあり、かつ、本件と背景を同じくする前記確定裁判のあつた窃盗罪につき既に懲役二年の刑に処せられていることを刑の量定にあたつて考慮すべきものと判断した。)
次に、被告人中島、同酒井及び同市原の各犯情をみるに、これら三名の被告人は、いずれも長年にわたつて不正入学のブローカー的役割を演じているうえ、本件各犯行においてはそのきつかけを作つているのであつて、本件各犯行における役割には軽視し難いものがある。このうち、被告人中島は、犯行回数も多く、本件各犯行によつて領得した金額も合計一〇〇万円にものぼる(このうちの一部は、学生の父兄の紹介者に一種のバックリベートとして交付されている。)のであるが、それのみならず、本件犯行前にも被告人岡や同村田に頼んで毎年のように自分が仲介の労をとつた学生の成績原簿の書き換えを行なつていたのであつて、その刑責は重いと言わなければならない。次に、被告人酒井及び同市原については、いかに学生の親に頼まれたとはいえ、学生の成績原簿の偽造に関わるなどということは教育者としてあるまじき行為であつて、その見識を疑わない訳にはいかない。そして、本件において被告人酒井が五〇万円、被告人市原が一〇〇万円の謝礼をそれぞれ取得していることを考慮に入れると、その刑責の重大さは、他の被告人らに劣らないものがある。特に、被告人酒井は、本件犯行前にも被告人小出に依頼して自分が不正入学の仲介の労をとつた学生の成績原簿の書き換えを行なつているうえ、本件についても、当公判廷においては弁解を重ねて責任を他に転嫁しようとする態度が窺われ、誠に遺憾である。しかし、被告人中島、同酒井及び同市原については、商学部関係者による偽造組織がなければ本件犯行に出る余地はなかつたことに加え、被告人酒井は、昭和五六年五月八日付で近畿大学を依命休職となつたうえ同年八月七日付で同大学を退職のやむなきに至り、被告人市原は、本件犯行後に発覚したいわゆる早稲田大学商学部入試問題漏洩事件に連座したため、その発覚後の同月一一日付で同大学を解任され、また、被告人中島も、やはり右事件に連座したため、同年五月に前記中島洋服店を廃業せざるをえなくなるなど、各被告人ともそれ相応の社会的制裁を受けていると認められるほか、被告人中島及び同市原はともに十分反省していると認められること、特に、被告人市原は、ボクシング選手の指導育成を通じてわが国の体育界に貢献があつたうえ、本件犯行によつて不正に領得した金一〇〇万円を社会福祉法人肢体不自由児協会に寄付してしよく罪の意を表明していること等のしん酌すべき事情も認められる。
以上の諸事情に本件に顕われた諸般の情状を併せ考慮すると、被告人らの責任は重大であり、既に別件で実刑の裁判が確定している被告人岡はともかく、被告人小出及び同村田についても実刑は免れ難いところであるが、被告人岸田、同中島、同酒井及び同市原については、なお刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
よつて、主文のとおり判決する。
(新谷一信 谷鐵雄 朝山芳史)